マザーズ上場企業の財務分析・ランキング(売上、利益、ROE、従業員数など)

CtoCフリマアプリの「メルカリ」や名刺管理サービスの「Sansan」など、ベンチャー企業の上場が注目されるマザーズ市場(Mothers:market of the high-growth and emerging stocks)ですが、財務指標の観点で直近の市場動向を調べてみました。

売上規模は成長するも、収益性は減少傾向

まずは、マザーズ上場企業各社の最新年度業績(2019年6月時点)と前年度業績の合計値(率は平均値)を比較しました。

売上は前年度よりも約2430億円成長していますが、営業利益や当期純利益は減少しています。営業利益率も7.4%から6.3%へ1.1ポイント減少していて、全体的に収益性よりも売上成長性を重視している傾向があるかもしれません。

ROAやROEについても、それぞれ2.6%から1.7%、4.7%から3.1%へ減少しています。

従業員数は、約52,800人から約59,500人と1年でおよそ6,700人も増加しており、このことからも成長性を重視している傾向があると言えそうです。生産性の1つの指標である従業員1人あたりの売上は約3,000万円になっています。

資金調達と投資は増えているが、まだ営業CF増加に結びついていない

キャッシュフローの比較ですが、財務キャッシュフローは約2040億円から約2890億円へ増加し、投資キャッシュフローも約1490億円から約1810億円へ増加しており、資金調達と投資を増やしていることが分かります。

一方、営業キャッシュフローは814億円から404億円へ減少しており、マザーズ市場全体的には、まだ投資額を増やした分だけの回収ができていない状況と言えそうです。

次にマザーズ上場企業における業種別の財務状況を分析していきます。

情報通信・サービス業が多くを占める

マザーズ上場企業の業種としては、情報通信業とサービス業が大部分を占めており、190社以上あります。

その後に小売(26社)、医薬品(16社)、不動産(16社)が続いています。

業種別の売上・利益(率)の平均値

売上と利益において、不動産業が比較的高くなっています。

業種 売上
(百万円)
営業利益
(百万円)
営業利益率
(%)
当期純利益
(百万円)
その他製造 31256 3228 6.5 1472
その他金融 5847 2075 12.7 1159
サービス 8499 878 5.4 511
不動産 13260 1589 11.7 958
医薬品 954 -1705 -2296.9 -1798
卸売 9536 560 5.6 411
小売 9148 249 3.8 170
建設 6254 289 5.8 118
建設業 11272 65 0.6 -88
情報・通信 3696 128 6.8 -17
機械 4020 -1339 -40.1 -3164
精密機器 2675 -608 -29.6 -545
金属製品 1010 244 24.2 175
電気機器 11635 754 -2.4 478
非鉄金属 2583 330 12.8 215
食品 1222 -752 -61.5 -796

業種別のROA・ROE・従業員数・生産性の平均値

ROA、ROEといった収益性や従業員1人あたりの売上(生産性)においても比較的、不動産業が高くなっています。

また、従業員数は建設、製造、電気機器といった分野で多いことが分かります。

業種 ROA
(%)
ROE
(%)
従業員数
(人)
従業員1人あたり売上
(百万円)
その他製造 1.3 -3.4 1024 30.4
その他金融 1.5 26.8 115 45.8
サービス 4.4 11.9 272 34.4
不動産 4.7 20.2 198 114.2
医薬品 -95.7 -51.7 60 11.1
卸売 9.0 16.7 138 70.5
小売 2.4 1.8 214 43.8
建設 4.3 9.5 253 56.0
建設業 -0.8 -5.1 1433 7.9
情報・通信 2.1 4.4 186 24.8
機械 -40.5 -98.0 162 26.2
精密機器 -5.2 -7.2 128 20.8
金属製品 6.9 12.9 35 28.9
電気機器 -1.4 6.4 822 16.9
非鉄金属 6.5 11.0 103 25.1
食品 -79.0 27 45.3

業種別のキャッシュフロー平均値

キャッシュフローは、製造や電気機器など製造系の業種が財務CFや投資CFが大きくなっています。これは、設備投資が必要なためと考えられます。

IT系企業が属する情報通信やサービス業は、比較的投資CFや財務CFが小さく、製造業よりも始めやすいと言われるのも納得がいきます。

業種 営業CF
(百万円)
投資CF
(百万円)
財務CF
(百万円)
その他製造 -102 -1984 10181
その他金融 -6393 -1018 10108
サービス 572 -514 123
不動産 711 -2783 2353
医薬品 -1570 -401 2100
卸売 167 -100 83
小売 282 -567 432
建設 -252 -184 -5
建設業 191 -784 299
情報・通信 127 -388 1092
機械 -643 -258 1112
精密機器 -404 -1017 217
金属製品 92 -38 1206
電気機器 3003 -4765 2368
非鉄金属 575 -210 177
食品 -153 -16 -86

売上・営業利益(率)・売上増加率ランキングTOP10

最後に企業別に財務指標を比較していきます。

まず、売上についてはミクシィが最も大きく、2位のオイシックス・ラ・大地に2倍以上の差をつけて1440億円です。その後、オイシックス・ラ・大地(640億円)、美容・健康機器ブランド開発のMTG(604億円)、通販マーケティングのトライステージ(538億円)、インターネット広告のアドウェイズ(418億円)、メルカリ(357億円)が続きます。

営業利益もミクシィが群を抜いて大きく、410億円で1位になっています。2位はユナイテッド(110億円)、3位は金融ソリューションサービスのジャパンインベストメントアドバイザー(89億円)です。

営業利益率は、手間いらず(宿泊予約管理サービスや比較.com運営)が一番高く、62.3%もあります。その後に、ジャパンインベストメントアドバイザー、日本ファルコム(ゲーム開発)、イトクロ (学習塾・予備校ポータルサイト「塾ナビ」運営)、GameWith(ゲーム攻略サイト運営)、ユーザーローカル(WEBマーケティング支援ツール・SNS解析ツール)が続きます。

自社ポータルサイトの運営企業が目立っており、市場ニーズのある分野で集客できるサイトを作ることができれば、低コストで運営し、高い利益率を得られることを示唆しています。

前年度からの売上増加率については、霞ヶ関キャピタル(不動産売買・仲介・管理)が最も高く、前年度の3倍以上の成長率を誇っています。その後に、アドベンチャー(航空券販売サイト運営)、and factory(自社アプリ開発・運営)が続きます。

急増するメルカリの従業員

次に従業員増加率を見ると、アドベンチャーが1年で37人から158人へ4倍以上増員しています。また、NewsPicksを運営しているユーザベースは241人から567人へ、フリーランス向け仕事マッチングサイトを運営するクラウドワークスは127人から291人へ増員しています。

メルカリは増加率としては10位になっていますが、従業員数は1年で596人から1140人へ544人も増員しており、テノHD(保育事業)の546人に続く2番目増加数となっています。IT業界で”ブラックホールのように人材を飲み込んでいく”と囁かれるのも納得がいきます。

ROAは、トビラシステムズ (迷惑電話・メールフィルタサービス)が31.6%と最も高く、その後にウェルビー (障害者支援サービス)、GameWithが続きます。

ROEは、日本リビング保証(住宅の保守保証)が88.2%で最も高く、その後にand factoryが80.7%、NATTY SWANKY(飲食店展開)が76.4%と続きます。

従業員増加率と売上増加率には弱い相関関係がある

ここで従業員増加率と売上増加率の関係性を見てみます。

横軸に従業員増加率、縦軸に売上増加率をとってプロットすると、売上増加率トップ10の企業においては、従業員が増加すれば、売上も増加していることが分かります。中でも霞ヶ関キャピタル、and factory、トランスジェニック(遺伝子関連サービス)、モブキャストHD(ゲーム開発)は、従業員増加率よりも売上増加率が高く、より効率的に売上を成長させていると言えます。

マザーズ上場企業全体としても、従業員増加率と売上増加率には正の相関がありそうです。(右図の枠内を拡大したものが左図)

ROAの差は当期純利益率の差によるところが大きい

ROAは以下のように分解できるので、ROAトップ10企業について各指標を調べてみます。

ROA = 総資産回転率 × 当期純利益率

総資産回転率 = 売上 ÷ 総資産

ROAトップ10企業の総資産回転率は0.8〜2.1で、マザーズ上場企業の平均が1.2程度であることを考えると、特別高いというわけでもなさそうです。

一方、当期純利益率はマイナスの企業も多く、ROAトップ10企業は比較的高い当期純利益率となっており、この当期純利益率の高さがROAを高くしていると考えられそうです。

高いROEを持つ企業はレバレッジ重視型と利益率重視型の2パターンある

ROAと同じようにROEも各指標に分解して分析していきます。

ROE = レバレッジ × 総資産回転率 × 当期純利益率

レバレッジ = 総資産 ÷ 自己資本

グラフを見ると、高いレバレッジによってROEが高くなっている企業と、当期純利益率の高さによって高ROEになっている企業の2種類が存在することが分かります。

マザーズ上場企業のレバレッジ平均が約2.5であることに対して、日本リビング保証が16.0、NATTY SWANKYが8.2、日本ホスピスHD(訪問看護・在宅介護サービス)が9.1、システムサポート(SIer)が7.5となっており、平均よりも3〜6.4倍高くなっています。各社とも業界はバラバラなので、高いROEを実現させるため、戦略的にレバレッジを高くしているのかもしれません。

一方、and factory、トビラシステムズ、VALUENEX(データ解析ツール・コンサルティング)、ウェルビーは、当期純利益率がROEの高さに大きく寄与していると考えられます。

キャッシュフローランキングTOP10

営業CFは、日本アセットマーケティング(テナント賃貸)とミクシィが、それぞれ207億円、181億円となっており、3位以下を大きく引き離しています。

投資CFも日本アセットマーケティングが219億円ともっとも大きくなっていますが、これは不動産購入のための金額が主な内訳になっています。

財務CFでは、メルカリが636億円で2位以下を大きく引き離していますが、調達額の内訳はIPOによる調達額が520億円、長期借入による調達額が160億円になっています。また、ユーザベースが89億円の調達を行なっていますが、Quartz Media社の買収に際して実施した資金調達および成長投資資金等を目的とした長期借入が82億円あります。

従業員が増えると生産性は低くなる傾向がある

最後に従業員数と従業員1人あたりの売上(生産性)の関係をプロットしてみると、三角形のような形になり、従業員数が多い方が生産性が低くなるようにも見えます。一般的に企業規模が大きくなると、生産性は低下していくと言われているので、その見解とも一致します。

ただ、業種による違いもあるかもしれませんので、業種別で深掘りして調べてみても面白いかもしれません。(サービス業と情報通信業に絞ってみても似たような傾向が見られました。)

マザーズ上場企業まとめ

  • 売上規模は成長するも収益性は減少傾向
  • 資金調達額と投資額は増えているが、まだ営業CF増加に結びついていない
  • 自社ポータルサイト運営は一度集客できれば、低コストで運営し、高い利益率を得られる
  • メルカリの従業員増加数はマザーズで2番目の規模
  • 従業員増加率と売上増加率には弱い相関関係がある
  • ROAの差は当期純利益率の差によるところが大きい
  • 高いROEを持つ企業は、レバレッジ重視型と利益率重視型の2パターンある
  • 従業員が増えると生産性は低くなる傾向がある