KPI設計&分析|EC・SaaS・クラウドファンディング業界事例データ

シェアする

クラウドファンディング業界のKPIツリー

クラウドファンディング業界のビジネスモデルも、クラウドファンディングを支援する人たちの決済総額の手数料が売上になるため、基本的にはECのマーケットプレイス型のモデルと同じようにリボン図で考えられます。まずは支援者側のKPIツリー例を見ていきます。

クラウドファンディング企業としては、Makuake(マクアケ)、CAMPFIRE(キャンプファイヤー)、READYFOR(レディーフォー)のデータを調べました。

クラウドファンディングにご興味がある方は以前の記事も合わせてご覧ください。

間もなく累計調達額100億円、クラウドファンディング マクアケの動向データ

クラウドファンディングの成功率を高める方法を機械学習で検証(Makuake編)

クラウドファンディング(支援者側)のKPIツリー例

クラウドファンディング(支援者側)のKPIツリーは上図のように分解できます。

決済件数は、①新規件数、②リピート件数と分解できる他、①会員UU、②会員UUあたりの決済件数のようにも分解することが可能です。

事業利益を考えた設計にしているMakuake(マクアケ)

マクアケの’20年Q2(’20年1-3月)の決算資料によると、決済総額は約25.9億円/Qなので、手数料率20%と考えると、クラウドファンディングによる売上は約5.2億円(実際の決算資料では約6.0億円のため、クラウドファンディング以外のコンサル料金などが約0.8億円含まれると推察)と計算できます。’19年12月に東証マザーズに上場したマクアケの手数料率は20%と、他2社と比べて高い設計にしており、事業利益をより意識した設計にしていると考えられます。

CAMPFIREの’19年10月のプレスリリースによると、決済総額は約18.6億円/Qで、ホームページ記載の手数料率17%と掛けると、売上は3.1億円/Qと推測できます。

READYFORは’19年3月〜’20年5月までの累計調達額が約40億円であることから、Qあたりの決済総額を約8.5億円/Q(=40億円 ÷ 14ヶ月 × 3ヶ月)と算出しました。また、手数料率は12%と17%の2種類が用意されているようなので、平均値の14.5%と仮定して売上を約1.2億円/Qと計算しました。

CAMPFIREとREADYFORは公開されているデータが少し古く、直近はコロナウイルスの影響で、直近の決済総額は上記よりも増加していると考えられます。

決済件数ではCAMPFIREがリードしている?

マクアケとCAMPFIREの決済件数は、それぞれ237千件/Q、239千件/Q(CAMPFIREプレスリリースの支援者数=決済件数と推察)なっており、CAMPFIREの方が決済件数自体は多いと考えられます。CAMPFIREも成長していると考えると、決済件数はより多くなっているでしょう。

その代わり、平均決済額はマクアケが10.9千円であるのに対し、CAMPFIREは7.8千円でマクアケの方が単価が高いと考えられます。

READYFORは’18年10月〜’19年3月までに累計調達額が10億円増加し、支援者総数が7万人増加していることから平均決済額は14.3千円(=10億円 ÷ 7万件)、決済件数は60千件/Q(=857百万円/Q ÷ 14.3千円)と推測されます。

クラウドファンディング(プロジェクト起案側)のKPIツリー例

クラウドファンディングにおけるプロジェクト起案側のKPIツリーは上記のように書くことができます。

規模の大きいプロジェクトを優先するマクアケ

各社のプロジェクト成功率に以下の値と置くと、Qあたりの成功プロジェクト件数は上図のようになります。

  • マクアケ:94%(マクアケの’19年2月プレスリリース記載の平均目標達成率を使用)
  • CAMPFIRE:60%(他の2社よりもプロジェクト起案の障壁が低い印象があり、READYFORよりも低いと仮定)
  • READYFOR:75%(レディーフォーサイトの掲載値)

そして、決済総額を成功プロジェクト件数で割ると、成功プロジェクトの平均単価を求めることができます。成功率のデータが憶測になっている部分もあり正確な値ではないですが、マクアケは他の2社と比べると成功プロジェクト単価が320万円/件と高く、比較的規模の大きいプロジェクトを優先している可能性があります。

CAMPFIREはプロジェクト開始件数が多い

マクアケの決算資料によると、’20年Q2の開始プロジェクト件数は863件になっています。CAMPFIREのプロジェクト掲載件数は、’19年10月28日時点で約2万7000件、’20年5月1日時点で約32000件のため、期間で割るとQあたり約2500件のプロジェクトが開始されていることになります。READYFORも同じように計算すると、Qあたり約1500のプロジェクトが開始されている計算になります。

CAMPFIREはプロジェクト開始件数を積極的に増やそうとしていると考えられますが、逆にマクアケは規模の大きい案件に絞って、確実にプロジェクトを成功させようとしているのかもしれません。

マクアケのその他KPI

マクアケの決算資料を見ると、リピート決済件数やサイトを訪問した会員ユニークユーザー数などのデータも公表しているため、上の表のような指標を見積もることができます。

会員登録率は18.2%で、そこまで高い値ではないようにも思えますが、リピート率は72.1%と高い割合でリピートしていることが分かります。

SaaS業界のKPIツリー

最後に最近注目されているSaaS業界のKPIツリーを見ていきます。

SaaSモデルの各KPIを変動させた場合に、累積キャッシュがどのように変動するかのシミュレーション結果などは、以前の記事「SaaSサブスクリプションビジネスモデルの事業計画KPIシミュレーション」をご覧ください。

SaaS(収益)のKPIツリー例

SaaSビジネスの営業損益は上図のように、粗利 – 顧客獲得コストで計算できます。そして、粗利と顧客獲得コストは、

  • 粗利=ARPU × 粗利率 × 顧客数
  • 顧客獲得コスト=CAC(Customer Acquisition Cost:顧客獲得単価) × 新規獲得顧客数

のように分解できます。

ちなみにSaaS業界でよく使われるARR(Annual Recurring Revenue)は、ARPU × 顧客数で算出できます。

具体例として、クラウド会計ソフトで有名なマネーフォワード(Businessセグメント)とfreeeのデータを見ていきます。

ARPUの高いマネーフォワードと課金ユーザー数の多いfreee

ARPUはマネーフォワードが5130円/月、freee(フリー)が2867円/月で、マネーフォワード がfreeeの約1.8倍高くなっています。

マネーフォワードの粗利率は、連結の値を使用していますが、粗利率はfreeeの方が7pt高くなっています。

マネーフォワードの課金ユーザー数は、ARRをARPUで割れば求められるので、ARRを計算します。マネーフォワード(Businessセグメント)のARRは、Businessセグメントのストック収入がグループARRの対象となり得るセグメント売上に占める割合をグループARR(7,870百万円)に掛け合わせて求めました。

具体的には以下の通りです。

セグメント ’20年Q1 ’19年Q4
Businessストック収入 1410百万円(71.5%)
1139百万円(68.7%)
HOMEプレミアム課金 304百万円(15.4%)
287百万円(17.3%)
Xストック収入 112百万円(5.7%)
107百万円(6.5%)
Finance 147百万円(7.5%)
125百万円(7.5%)
合計 1973百万円 1658百万円

’20年Q1と’19年Q4の合計額をそれぞれ4倍(4Q分)掛けると、7,892百万円、6,632百万円となり、実際の公表ARR 7,870百万円(’20年Q1)、6,318百万円(’19年Q4)とも近い値であることから、上記の割合は概ね合っていると考えられます。

マネーフォワード(Business)の課金ユーザー数は、91,366ユーザー(=7,870百万円 × 71.5% ÷ 61,558円/ユーザー・年)と推測されます。

freeeの課金ユーザー数は、205千ユーザーでマネーフォワードの約2.3倍いることが分かります。freeeは個人事業主の課金ユーザー比率が高いため、ARPUは低いものの課金ユーザー数が多いと考えられます。

マネーフォワードとfreeeの月次Churn Rate、既存・新規課金ユーザー数

マネーフォワードの月次解約率(月次Churn Rate)は1.4%、freeeは2.0%でマネーフォワードの方が解約率が少ないです。

既存課金ユーザーは、各社の前Qの課金ユーザー数(マネーフォワード:73,256、freee:172,882)に(1-解約率)を3ヶ月分乗じて算出すると、上図のようになります。また、新規課金ユーザー数はマネーフォワードが2.1万ユーザー/Q、freeeが4.2万ユーザー/Qでマネーフォワードの約2.0倍獲得していると推察されます。

freeeの方が効率良く新規顧客を獲得している?

マネーフォワードの顧客獲得コストは開示されていないため、freeeと同じ比率(66.7%)と置きました。その前提だと、マネーフォワードのCAC(顧客獲得コスト)は44,481円/ユーザー、freeeのCACは28,498円/ユーザーで、freeeの方が効率良く新規顧客を獲得できていると言えそうです。

営業損益(=粗利 – 顧客獲得コスト)は、マネーフォワードが47百万円/Q(売上高比率:3.3%)、freeeが187百万円/Q(売上高比率:10.3%)で、freeeの方が高くなっています。実際の営業利益は、R&Dコストや一般管理コストも乗っかってくるので、上図の数字よりも低くなります。

SaaSのROI・回収期間のKPIツリー

SaaSビジネスモデルの投資効率性を測る指標として

  1. ROI=LTV ÷ CAC
  2. 回収期間=CAC ÷ 粗利

がありますが、それぞれ上図のようなKPIツリーの構造をしています。

ROIと回収期間はマネーフォワードが優勢?

ROIについて、マネーフォワードは5.8(=5,130円/ユーザー・月 × 70% × 1/0.014月 ÷ 44,481円/ユーザー)、freeeは3.9(=2,867円/ユーザー・月 × 77% × 1/0.02月 ÷ 28,498円/ユーザー)で、マネーフォワードの方が投資対効果が高い結果になっています。

この差はマネーフォワードのARPUの高さとChurn Rateの低さが主に起因していると考えられます。

回収期間について、マネーフォワードは12.4ヶ月(=44,481円/ユーザー ÷ (5,130円/ユーザー・月 × 70% ))、freeeは12.9ヶ月(=28,498円/ユーザー ÷ (2,867円/ユーザー・月 × 77% ))で、回収期間もマネーフォワードの方がやや早い結果になっています。

SaaS業界では一般的に、ROI>3.0、回収期間<12ヶ月が目安とされているので、ROIは両社ともに上回っており、投資対効果が高い水準になっていると考えられます。ただし、確定申告シーズンに被っていたために高くなっている可能性もあるので、時系列で推移を確認した方が良いでしょう。

回収期間は両社ともに目安まであと一歩のところまで来ているので、CACを下げるか、粗利を上げるかの対応が必要かもしれません。

まとめ

EC、クラウドファンディング、SaaS業界の事例データをもとにKPIツリーを調べてみました。

類似事業でも異なるKPIを置く場合もありますので、自社事業で何を重要価値として置くのか、他社は何を重要指標として捉えているのか、考えながら数字を読み解くと色々アイデアが出てくると思います。みなさんも是非、興味のある企業や業界のKPIを分析してみてはいかがでしょうか?

ビジネス分析って面白いですね!

公式twitterページのフォローもお願いします

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

BizArts中の人(ぽこしー)がtwitterも始めましたので、ぜひフォローをお願いします。企業やマーケット関連の話など、ゆるくつぶやきます。